青春時代にみんなで、ナルシストとか、イタイとか、不思議ちゃんとか、中二病とか、言い合って、個性的にならないよう毎日牽制しあっている、そういうのを見て、ああ、こうやって、平凡な人間は量産されていくのかと考えたりもしていた。
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あとがきより引用。全文は書籍で、ぜひ。
50億 最果タヒ
駅では待ちくたびれただれかの影がたくさん重なって、夜を局所的に作っていた。ほんとうの意味で冬がきたというならば全部死ななければならないと地球だけが知っている。地球はたくさんの氷河期と絶滅を見てきたんだ、きみの自殺や、きみの絶望を鼻で笑うよ。ぼくも、地球と共感したいからまずは50億年生きたい。きみのことくだらないと思っている。
ドラマが始まって、電話を切って、テレビを見ている間、たくさんの電車が右往左往している。運ばれているのは空気と細菌で、それからついでに人間たち、衣服とかばん。目を見ている間、その人の指先や足がどう動いているのかわからないのが、憎くて堪らない。だれにも負けたくない。だれの絶望にも負けたくない。きみのことを無視していたい。
春が来て、溶けた山やビルが、海に混ざって、まただれか生き物を作るんだろう。かわいそうだ。そんなことをしている間はいつまでたっても、ぼくらは不死身になれない、自殺とか絶望とかの話題に事欠かない。死んだやつは生きているやつに永遠に勝てないのに、生まれてくるからだれか死ぬんだ。
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「50億」 作:最果タヒ
イラスト詩集「空が分裂する」収録
初出 界遊005
詩集「空が分裂する」表紙
(写真・川島小鳥)
最終回 最果タヒ
今日からついに最終回だ。あともう少しで主人公である私はきみと死んで、すべてめでたしということになるのだ。この物語の伝えたいことはどうやら愛の重要性らしくて、だから私ときみはおもいっきり、生より愛を選んでいさぎよく死ぬべきらしいんだ。
緑色の霧が満ちていて、そのあとそれが極限まで薄められた森のことだと気づいた。水彩画に水を撒いたようにすべてが溶けて、混ざり合おうとしている中、息をしている。アスファルトや街灯の溶けた色が、すこしずつ肺の内側へ、混入していた。呼吸が、私と世界をかきまぜていくよ。目や、肌や、私の内臓すべて、どうなっているのだろう。鏡の前に立つのが恐ろしい。
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小説「最終回」(作・最果タヒ) 冒頭部分
レドヴィの初恋 最果タヒ
ぼくらはゆっくりと流れる月の光に手をかざしていた。川はそのまま海まで流れていくだろう。女の子は夜を恐れた。もう眠りたいと泣いた。ひとりだけ気丈な少女がいて、彼女は川に入って空にほうけていた。
まるで見えない岸のなかに吸い込まれていくようにして君はいなくなった。
眠っていた。
目覚めて、あたりを見渡すとぼくは川岸で、
朝だった
見上げていた。何もないところではなく、石も草もきっと風でゆらいでいて、その振動で熱が生まれ朝は暖かい。そして君はいなくなっていた。
家に帰ってしまっていた女の子たちはぼくらに朝食を持ってきた。サンドイッチ
そしてオリーブ
なにかを教えてくれそうでいて、それでいて何もいわず、君の話はでることもなく、朝はすぎて昼になった。ヤンは本を読み始め、水面で反射した光で顔がやけていった。女の子たちは川に足をつけて、泳ぐ魚におびえながら指をつけた。
これってつかまえられるのかしら
ぼくはずっと奥まで渡って君を探した。
眠れる時間になると女の子たちはまだ赤い日がある間にと、いそいでバスケットを片付け、妹や弟の腕を引きずって帰ってしまった。目があうとそらしてしまうぼくは、いまだに名前を覚えられていなかった。ヤンは帰ろうといった。ぼくは、ぼくはそうだね、と笑って、
うそをついた
帰り道でひきかえした。
夜は月の光を借りて、消えてなくなってはいないふりをした。
水は流れているようだった。月がなくなれば消えてしまっても気づかないだろう。
水は流れて海まで行っていた。ぼくは悲しくて泣いた。みんなと、
みんなと帰ればよかったと思った。
— 「レドヴィの初恋」(最果タヒ)
連載小説「魔法少女WEB」(作・最果タヒ) 登場人物紹介
☆魔法少女WEBとは☆
別マガに連載中の小説だよ。
インターネットの力でデジタルミラクルるるるるるーっと魔法少女に変身する女子(ただし女子高生)の物語。思春期と魔法が化学反応して、青春が暴発するよ!(たぶんね!)
☆織田日月(おだ・あかり)☆
魔法少女。そして女子高生。「私ってもう少女っていう年じゃないしさー、赤いきらきらの衣装もなんか高校生が着るには恥ずかしいしー」というような理由で魔法少女であることを周りに秘密にしている。別に、「誰かにばれたら魔法が使えなくなるよ!」とかそういう設定はない。最近は、ずっと守ってきた幼なじみが、風紀委員会に入って、ちょっと青春を謳歌しはじめているのがつまらないとか思っちゃってる。おおざっぱなくせに本人はひそかに繊細なので、キツいことを言われると誰にも気づかれないところで落ち込む系女子。
☆安楽栞(あんらく・しおり)☆
ぼくっ娘転校生。常に冷静だけれど、ときどきアニメ等の引用を口走る。そしてその時が一番安楽さんのテンションが高いときでもある。頭脳明晰であるはずなのに、他人の気持ちには大変うとく、たびたび事実だけど言ったらだめだろ的発言をする。クラスメイト全員を「さん」付けで呼ぶ。織田さんとはそれなりに親しいけれど「さん」付けで呼ぶ。織田さんも、「あかりって呼んでよ!」という勇気がないので、黙って「安楽さん」と呼び返している。
☆木下音々子(きのした・ねねこ)☆
ちびっこ風紀委員。織田さんの幼なじみ。織田さん曰く「別に大してしっかりものじゃないし、几帳面でもないし、むしろ昔から泣き虫で優柔不断だったのに、無理して風紀委員に入ったりしたからしんぱ……違う!心配じゃない!ばかだなー、って言おうと思ったの!」。遅刻ばかりする織田さんの将来を心配して、風紀委員になったということは、永遠に織田さんに言うつもりはないのであろう系女子。人がいいので、いろいろ責任を背負いすぎて、よく混乱する。
☆億夕梨(おく・ゆうり)☆
風紀委員長。静かで、得体のしれない美人。ドイツ人の血が入っているらしい。能力的にもパーフェクト。大変厳格な風紀委員長ではあるが、中性的な顔なので、後輩たちの中にはファンがいる。彼女には生徒たちの無能さがナチュラルに理解できない。
☆百百桃子(もも・ももこ)☆
風紀副委員長。億を外見だけでなく内面込で慕っている珍しい生徒。ツインテールにぱっちりおめめ、という、アイドルみたいな風貌にぼけっとした性格。億には冷たくあしらわれているけれど、でも、めげないもん☆ 系女子。将来はアイドルとかになってほしい。(作者の願望)
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ブログ「最果タヒの森山森子」より抜粋。
小説「魔法少女WEB」は別冊少年マガジン(講談社)にて連載中。挿絵は紗和さん。
3月9日発売の4月号には、第3話が掲載。前回までのあらすじもあるので、今からでも読めます。(アンド、今月号から新展開なので、今回から読むのは結構、話に入りやすいと思います)
ぜひ読んでください!
ちなみに、アンケートもよろしくお願いします。アンケートは、今月号から、パソコン、スマフォでも可能になりました!(携帯電話でももちろん可能です!)どうぞよろしくおねがいします!
移住者 最果タヒ
だれも来ない街だから、だれもでていっちゃだめなんだよ、
この世でもっとも好きなのは、きみのいない世界、すべてからきみだけが抜けて、なくなった世界で、よかったね、きみは銀河系から出られた、ということにして、きみだけをのけ者にした世界、あるんだよ、知らないの、そこに生まれなくて良かったね
かわいいなあって言っていたんだけど部屋にかわいいものなんてひとつもなかった 森に住もうよ、カラスなんて呼ばないから、伝書鳩だってあやつるから、バラを育てるのがじょうずなお嬢さんを、隣人にしよう もう ビルを振ったってなにも出てきやしないよしりとりがくだらなくて
くだらなくて
遊ぶことがなくなって
眠っていた時間を計上して
死んでいるのとかわらない! と、叫んだ
あいつ
ばかじゃないのか
世の中はそれを狂気と呼びます、けれど私は青春と名付けてやりたいのです、「ボランティアじゃないよ」、西の世界はすべてもえているとき、焦げてはがれた青空の奥から現れたまっくろ、星と月は私が食べました、救いようのない黒に、きみたちは眠ることを選択して、ほら、
それが間違いだった
恥ずべき姿で幸せだから手を叩いている姿を鏡にうつして、
だれかが、今日もなんにもなかったと言う
地表が全部つながっているってうそだ
戦争なんて目に見えないし
投身自殺も知らぬ間に起きる
知らぬ間
赤い糸で人がつながっているんだと信じていた頃、
絡まるのがいやで空に浮いていたかった
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「移住者」(作:最果タヒ)
(以前、テキストとして投稿したのですが、「引用」形式で投稿しなおします)
小牛と朝を 最果タヒ
とおくの指先で悲しんでいる
小牛に
かなしまなくてもいいよ
なんて言いたい
わたしの死を、きみが悲しむ必要はないよ
朝
どうしても牛乳を受けつけないのは
夜のすこしあとに
わたしがいた
くろい場所を思い出すから
はいあがってきたの
笑い話には まだなってなかった
小牛を
ちょっとだけ
焼いたりする
朝
わたしはカルピスを飲む
牛乳のつもりで飲んでも
驚かないんだ、こればっかりは
昨日も死んだのに
今日も死ぬ
眠る前はそうやって
あきらめる
そうするととおくの小牛が泣くから
わたしはまた
はいあがる
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「小牛と朝を」作:最果タヒ
初出 詩集「グッドモーニング」
詩を書きはじめたときの作品です。
花狂 最果タヒ
花を生む少女を部屋にとじこめて忘れられない棺桶作る
ゆうやけに染まる河川を飲み干してあなたを祝う薔薇になりたい
ブランコであびた花びら梅雨にとけ黒の喪服を浄化させゆく
花びらの静脈たどり熟睡のきみへとぼくは辿り着いたの
満月の夜に漂着した花は大輪だった透明だった
真夜中の車道で眠る君がなるのは花か月夜かアスファルト
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「花狂」(最果タヒ)
短歌は苦手で、この作品しかもう手元には残ってません。高校生のころの。
宇宙以前 最果タヒ
1.宇宙人
「きみは自分のことを生き物って思っているかもしれないけれど、ぼくらが保護したい、いのちとは別物で、(きみが思っているよりずっと)たいしたことないからね」
うん。ぼくはきっときみたちにとって、生きていない、死んでもいない、はじめから「生物」じゃない。だれもが当然だと思う「重んじるべき生命」じゃない。科学的に調べ、生物だと結論づけることはもちろんたやすいけれど、かといってそれを本質的に理解することはきみには不可能ね。
ぼくらときみたちはあまりにも違いすぎた。たとえばぼくらが石ころを渡され「そいつもいのちです」と言われたら嫌悪も、嫉妬もなくただ否定するだろう。同じようにかれらはぼくらを否定する。「きみたちは、さほど生きてないよ」って。まるで生物を殺すぐらいなら死んだほうがましと言った口で野菜を噛み砕くベジタリアンのごとくさ。生物であるはずのものを、生物として扱えないのは、生命というものがはじめから感情に沿って定義されたものだからだろう。花をたおることにさえ躊躇する少女がいる一方で、大多数は動物を殺すぐらいなら植物を殺すではないか。「知っている? 動物は植物になれなかった落ちこぼれの生命が、仕方なく進化した末路なんだって!(びっくり!)」ぼくらは植物を下位に見て、動物を優先している。その根拠はかんたんで、動物が植物より自分たちに似ているからだった。
だからぼくたちはきみを否定しちゃう。きみたちもぼくを否定しちゃう。まったく異なるきみたちを、ぼくらと同じだなんて思えない。動くぼくらが動かない植物を軽んじちゃうみたいに、あたりまえのことを指摘するみたいに言ってしまうんだ。「あなたたちは、いのちじゃありません。たいしたことありません。ごめんなさい、だって本当に、あなたたちって生きていないじゃないですか、わたしたちは生きているけれど、あなたたちは生きていないじゃないですか、それが事実じゃないですか。あなたたちは勘違いしているんです。あなたたちはいのちじゃなくて、……なんなんですか?」
「宇宙人です」
宇宙人に会いたい。それってとても楽しそうだ。きっと宇宙人に会えばぼくはこんなことを議論するだろう、やあ、きみはどうやら生命ではないようだね、そして宇宙人も負けずにあなたこそ生命ではないようだ、と言い返す。ぼくと宇宙人はたがいにいつまでも否定しあい、おまえなど生きていないと叫び続けるのだ。決定事項だ、まったく関係のないところで、まったく地球と異なる生命体が誕生し進化しているとしたら、それらの生命の概念はぼくら地球上にある生命の概念と一致などしない。宇宙人を本質的な生命だと認めることは出来ないに違いなかった。ぼくらにとってかれらはいのちではないし、そしてそれはかれらにとっても同じだ。争いは避けられず、それなのにぼくらもかれらも、いのちであることになんの根拠もない神聖さと、誇りを抱いている。ぼくらがかれらと遭遇すればきっと、あたりまえだったはずの生命としてのアイデンティティが引き剥がされ、自分になんにもないことに気付くのだろう。生物であるという点でしか自己の価値を保てないことに気付く、生きるということにしか自己を見出していなかったことに気付く。生命であるという事実がぼくらを形作っていたならばそれを失ったときぼくらはなんになるのだろうか。だから、ぼくは宇宙人に会いたい。
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「宇宙以前」(作・最果タヒ)冒頭部分