スパークした 最果タヒ
白い革命ですね!
あなたはそう思ったに違いない。白のなか花は生きるだろうか、生きるとしてそれはやはり白い花弁を持つのだろうか。黄緑の茎が栄え、奥ゆかしい花房が静かにたたずんでいることを想像した。左手の指先に電話があたり冷たさを思い出したあなたの頬は熱く赤い。頬のそばでは両眼のまつげが髪より黒く闇を放っていた。
万端が雪化粧だった。歩くとさくりと雪の固まりが固まりと固まりに裂ける音がして、つまりそれは固まりと固まりの境界に当たる若干が、砕け潰れる音でもあった。冬であった。そうしてあなたはコートを着ている。赤や青の、数えても仕方がない、棚に並んだ背表紙たちの色数をついさっきまで数えては部屋で縮まりこんでいたけれど、突然、唯一のコートをひっかけて外へ飛び出していった。理由はわからないし、ないのかもしれない。
一人で、あなたは歩いていた。「春、春は近いだろうか」小鼻を膨らませ思い描いてはみても、あなたのそれは薄桃色の花で、花の名すら虚像に追いついてはこない。足下では実像なる季節変わりの顛末として、濡れた雪が凍てつきながらも地を這っている。ころぶかもしれない、気をつけてと言う人もおらず、あなたは陽気なものだ、歩いて、わざと凍った白く未だ汚れようともしない雪の舗装を、選んでは踏みつけていた。
《気をつけて、ころぶよ!》
それであなたは危険なことをやめる。
やめた。艶のないアスファルトは、道端を除けば車や人によって積雪の中から顔を出していた。あなたもそこを歩いている。
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小説「スパークした」(作:最果タヒ)冒頭部分
初出:群像2009年5月号
